PalmOS Cobalt と Garnet の話

Posted by yoosee on Palm at 2004-02-11 23:42 JST

*1  PalmOS6 "Cobalt" と PalmOS5 "Garnet"

/.J の記事 にもなったが、PalmSource のプレスリリース によると、PalmOS5,6 の新しい名前として "Garnet", "Cobalt" が決まったようだ。元々 PalmOS6 は現行の PalmOS5 から大きく変化して「マルチタスク OS」になる予定だ。しかしそれ故、ハードウェアへの要求条件は格段に高くなる。低価格端末を出すためには PalmOS5 も残したい、と言った プラットフォーム展開上の戦略 があり、今回のような別系統でのリリースという形になったようだ。PalmOS6 に関しては、既存の Tungsten|C でのテストが行われているという噂 もあり、一部 スクリーンショット も公開されているようだ。

*2  Cobalt の行く道

OS5 "Garnet" は基本的に既存 PalmOS の延長線であり、現行の 5.2.1 と比較しても目新しい点はさほど無い。対して Cobalt は過去に PalmOS6 の新機能 でも書いたが、BeOS の技術を引き継いて全く新しく書き下された「マルチタスクOS」になっている。/. にて Details Of PalmOS6 - 'Cobalt' として取り上げられた、PalmInfocenter の PalmSource Introduces Palm OS Cobalt and Garnet から、興味深い点を読みとってみよう。

PalmSource の CEO である David Nagel の話によれば

Palm OS Cobalt は、コミュニケーション、企業活動、教育、そして娯楽といった分野での、モバイルの新たなデバイスやソリューションを作り出す道筋となる。
そしてまた Cobalt と Garnet ともに、スマートフォンや様々な機器でのワイヤレス通信プラットフォームとしての最適な解を提供する事になるだろう

と、華々しい未来を宣言している。PalmOS6 は 2001 年に買収した BeOS からグラフィック・マルチメディアの機能を受け継いで、全く新しく書き直されている。主な新機能としては
  • マルチタスク・マルチスレッド
  • メモリ保護
  • 大容量 RAM/ROM や大画面のサポート
  • 標準化されたセキュリティ機能(SSL等?)の搭載
  • 同時並行利用が可能な通信機能やマルチメディア再生機能
等が挙げられているのは以前にも書いた通りである。

*3  新しい Palmware 開発環境

開発環境は既に PalmOS Dev-Zone の Resource Pavilion で preview 版が公開されている。開発環境は基本的に Eclipse 環境で用意され、CodeWarrir, Eclipse, Borland tools, AppForge の MS .NET 互換環境も利用可能にする予定のようだ。PalmSource Inc. は自分の OS/デバイス を魅力的にしてくれるのはその上で動作する Palmware だと分かっているはずで、preview の迅速な公開や Dev-zone での情報開示など、開発者のサポートは丁寧に見える。Cobalt が提供する今までよりも遥かに豊富な機能をどう使いやすい形で開発者に提供していくかも、PalmSource の真価が問われる一面と言えそうだ。

*4  Cobalt の深部

更に、詳しい Cobalt の個々の機能について記載されている部分を追ってみる。
マルチスレッド、マルチタスク
現在シングルタスクの PalmOS のマルチタスク化。これにより複数アプリケーションを同時に利用することが可能になり、ユーザの使用感が向上する。特に現在は、アプリケーションを切り替ると通信中のセッションが切れてしまう。これでは安心して IRC も出来ない... 事はともかく、例えば POP でメールを取り寄せながら、その間に何かする、と言うことは不可能ではないが難しいが、こうした事が普通に出来るようになる。但しマルチタスク化により、当然ながら要求されるハードウェアスペックは跳ね上がるだろう。
メモリ保護技術, 及び 256MB 以上の大容量 RAM/ROM サポート
マルチタスク化にともない、OS レベルでのメモリ保護が実装される。これにより、特に複数アプリケーションを同時利用した際のクラッシュの発生を防ぐ。但し PalmOS が現在持っているファイル構造 - ディレクトリという概念はなく、全てのファイルがフラットに配置され、RDB のようにプロパティで管理される - はそのままのようだ。
セキュリティ機能のOSレベルでのサポート
暗号機能や認証機能の OS レベルでのサポートを行い、特に通信やビジネスユースに要求されるセキュアな接続 - VPN や over SSL 通信等 - を容易に行えるようにする。
モジュール化された追加可能な通信アーキテクチャデザイン
標準化された STREAMS ベースの通信方法やプロトコルをサポートし、複数の通信手段 - 例えば WiFi で通信しながら電話を受ける等 - を同時に行うことが出来る
拡張可能なマルチメディアフレームワーク
リッチな映像・音声メディアを扱うためのフレームワークを提供する。パス, 回転, グラデーション, アンチエイリアス, アウトラインフォント, 透過処理等を OS レベルで処理し、32,000x32,000 までの解像度をサポートする。また ADPCM/PCM, MP3, MPEG1, MPEG4 等の標準的動画・音声技術を容易に扱うことが可能になる
PIM 機能/データ方式の改善
255以上のフィールドをサポートし、MS Outlook との互換性を高める。また個々の PIM アプリは、フォントの大きさなどのレイアウトをシチュエーション - 例えば DIA (仮想グラフィティエリア) の有る無しや、Edit/View 時の違い - にあわせて自動的に調整する事ができる
MS Outlook との互換性の改善
MS Outlook との互換性を高めるために、幾つかの追加フィールドを Datebook や Address Book に追加する。また PC 上のアイコンを Drag&Drop することで用意に PalmOS デバイスに持ち込み、閲覧・編集する事が可能になる。
既存 Palmware の互換性
既存の Palmware に関してはソフトウェアでのエミュレーションを行い、古いソフトでもそのまま動作させる事が可能になる
等になる。この後も Palm 陣営の華々しい宣伝が続くが、基本的には「様々な分野でのモバイル・コミュニケーションに革命をおこす」と言った発言のようだ。

*5  それで結局何が変わるのか

ここまで様々な新 OS Cobalt のメリットが述べられてきたが、冷静に考えれば、殆んどは Linux Base の PDA や PocketPC 等では既に実現されている機能だ。また、『PalmOS はシングルタスクであるが故に、ある時点での全てのリソースを 1 つのアプリケーションに注ぎ込むことが可能であり、故に低スペックのハードウェアでも高いレスポンス性能をユーザに提供することが出来ていた』という面があっただろう。つまりマルチタスク OS 化とは、待ち望まれていたこの先は必須な機能であると同時に、PalmOS の今までの利点も消しかねない危険な進化であると言える。

現在の PalmOS 陣営に長所があるとすれば、まずはこれまでに開発・利用されてきた非常に多くの Palmware だ。それらの優秀な開発者 - 開発力もそうだが、PDA の UI 特性を熟知している人々 - に、どう新しい OS を魅力的に見せるかは大きなポイントになりそうだ。また、もうひとつ大切なのはユーザの快適な利用感を支えている Palm の思想ではないだろうか。過去には「Zen(禅) of Palm」とも呼ばれた「シンプルであること」「軽快であること」の思想は、少なくとも現在の PalmOS デバイスでは死んでいないと私は思っている。そうした思想を残しつつ、新たに要求されつつある「マルチメディアとコミュニケーション」への拡張をどう実現していくか、興味深く見守りたいところだ。

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