*1  米国企業と日本企業での「時間」と「効率」に対する認識の違い

日本企業、特にホワイトカラーの生産性の低さが話題になるのをよく目にするが、その根本原因の一つは「残業」ではなかろうか。この夏の東京では節電のために空調を止めるので残業を禁止している企業もあると聞くが、そのまま残業は一律禁止にしたらどうだろうか。

こんな事を思うに至った理由の一つは、残業という概念が希薄な米国から日本と仕事をしている現状を踏まえてのものだ。 米国で管理職相当の仕事をやっていると気づく大きな違いは「部下の時間・リソースは有限である」というシンプルな認識である。つまり残業を前提としない部下は、1人あたり「1週間に8時間 x 5日 = 40時間」しか働いてくれない。良し悪しはともかくとして、自分の手持ちのリソースは有限であるという事実を常に意識させられるのである。

この認識がどのような状況を生むのか。大きく以下のような事が思いつく。

社員の評価が効率性・生産性で計られるようになる

労働時間が決まっているのだから、当然ながら同じ時間内にアウトプットが多い社員が良い評価を受ける。ましてやチームとしての生産性を向上させる社員は管理職には非常にありがたい。効率改善が強いインセンティブとなるため、これが積み重なれば当然、企業としての生産性も上がっていく。

当然ITシステムやオフィス環境などのインフラも効率向上をサポートする方向に強化される。例えば大画面のマルチディスプレイなどというのはIT労働者の労働効率を大きくあげる安価な手段と認識されるし、また業務を効率化するためのツールやシステム導入も積極的に行われる。

またそもそも日本の従業員も、残業を前提に仕事を薄く伸ばしていないだろうか。例えば午後3時くらいに「夜9時で仕事するならまだ6時間あるし...」などと思って息抜きしてたりしないだろうか。トータルでの実労働時間はそれでも恐らく日本の方が長いだろうが、残業を含むオフィスでの長時間を全て労働に使っている人ばかりではないだろう。

管理職・経営層は「やるべき事」だけでなく「やらなくていい事」を決めなくてはいけなくなる

時間・リソースが有限である事が明確な以上、優先度の低い事に時間を費やす余裕はなくなる。日本で仕事をしていて典型的なものとして、上司が「あらゆる可能性を検討して最善の策を提示しろ」と部下に命じるケースがあるが、これは得てしてリソースの無駄遣いであると共に、ビジネスの決断スピードを著しく低下させ、市場についていけ無くなるリスクを生む。

また例えば会議や打ち合わせに部下を出すことは、部下が本来他にやるべき仕事の時間が消費されるため、米国の管理職は結構ためらう事が多い。これは特に Developer などの高給な専門職に対して顕著になる。

上級管理職、例えば米国での Director ポジションの仕事は、正に「やる事」「やらない事」を「判断・指示 (Direction)」することだ。当然そうした判断を下す以上、成功と失敗があり、失敗すれば責任を問われる立場だからこそ上級管理職は高給なのである。

まとめ
  • 残業禁止により、社員の労働時間は明確に有限で計算可能なリソースとなる
  • 時間あたりの生産性・効率性の高さが社員評価の基準になり、その向上が強いインセンティブになる
  • 使えるリソースが有限な以上、管理・経営層はフォーカスを絞ったビジネス戦略を立てて決断する必要が強くなり、結果として市場に対するスピード感が増す
こう単純に事が進むかどうかは難しいところだろうが、今の多くの日本企業が生産性や効率性にフォーカスをあてるには残業禁止くらいの荒治療が必要なのではなかろうか。

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