*1  天才数学者、株にハマる - 数字オンチのための 投資の考え方

天才数学者、株にハマる 数字オンチのための投資の考え方
4.5 (22レビュー)
2年以上前の本だが、今読んでも名著だと思う。特に「理系で株をこれから始めようという初心者」「数字に疎く株の動きの裏付けを知らずに取引をしている人」には是非読むべきだろう。市場というものがどういう仕組みで動くかを、簡単な数学と市場に関わる人間心理や共有知識といった思考実験で解き明かしている。

ところで本書の内容から得られる事を非常に端的に書くと、あまり色気が無い話になってしまう。
  • ファンダメンタル分析やテクニカル分析なんて実際には役に立たない。
  • 株価の振舞は(市場成長率の分だけ全体としては上昇傾向の)ランダムウォーク
  • ランダムウォークを前提とするならば、資産投資ではリスク分散が最重要
これを見て「えぇっ、本当に役に立たないの?」と思った人はぜひ本書を読んでほしい。とこれだけではなんなので、本書の内容を私の理解から簡単に幾つか抜き出してみる。
  • ファンダメンタル分析やテクニカル分析等の効果を考えるときには「平均◯◯銘柄」といったインデックス以上の効果があるかどうかを考えなければいけない。そして実際に比較した場合、インデックスを越える収益をコンスタントに出しつづける事は非常に難しい
  • 過去の経緯・分析は、過去を説明できたとしても未来の市場を予測するものではない。仮に今の株価が過去から現時点までの全ての企業情報を含むと考えた場合、未来の株価は完全にランダムな事象になる
  • 株式市場の動きに関しては、数学的にはランダムウォークないしカオスといった「現実的な未来予測が不可能な問題」となりそうだが、現実には情報伝達の遅延(例えばインサイダー情報と公開情報の時間差)、心理的なフィードバックによる動きなどはある程度の確率で予想できる可能性がある
  • 一方で市場の持つフィードバック機構を利用することにより、情報操作や投資による市場操作は現実として可能である。有名アナリストの分析が「当たる」のも、彼らの発言自体が市場の動きに影響を与えているからだと考えることが出来る
  • そうした特別な情報の入手や市場操作が出来ない普通の投資家の場合、負の相関を持つ銘柄での分散投資や、オプション・ファンド・デリバティブの適切な利用によって取引リスクを軽減することが出来る。要は「ひとつのカゴに全ての卵を入れる」のを避ける
このあたりを考えると、株取引に対するアドバイスとして本書が言っていることは、インサイダー情報や市場操作を除けば極々普通の物になる
  • 単一銘柄に過剰な投資はしない
  • リスクをカバーするポートフォリオをつくる
本書の考え方を突き詰めれば、投資する人間が気にするべきは市場全体(もしくは投資銘柄の業界)の基調が上昇か下降かと言う点のみになろう。つまり投資にリターンを期待するということはインフレを仮定するということであり、デフレを仮定する場合には現金で持っていた方が効率がよい。と言うのはまぁ極常識的にいわれるところではある。もちろんそれを予測すること自体、長期スパンでは容易ではないだろうが。

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